ナレッジ共有では形式的な収集だけでは悪手か?

ナレッジは生み出されるもの

業務や開発などの知見は、教科書などのように体系だてられたものだけではありません。特にその現場や他社に優位となる創発的なナレッジは常に生み出され、淘汰されているものです。それらこそ、組織やチームで共有する価値があるのかもしれません。

もちろん、教科書のように体系だてられるものは体系だてて、誰が見てもそれを拠り所にすればよいようにすべきであることは間違いありません。ただ、それに縛られていると、即時性・即効性があるナレッジを見落としてしまったり、軽視してしまったりします。

例えば、「体系だてれ承認されたものだけを共有すべし」とした場合、それらのナレッジが収集され、体系だてられ、そして誰かに承認されて共有されるまでのリードタイムはどれくらいでしょうか。私の経験だとこれに実に3ヶ月前後を要する職場がほとんどです。この3ヶ月間、その価値のあるナレッジは一部の人にしか知られることはなく、当然、広範囲な現場で活用されることはないことになります。

氷山のメタファ

以前のコラムで氷山にたとえたように、ナレッジの大半は表層化されておらず、水面下にあります。

[clink url=”https://www.evangelism.jp/2019/09/the-art-of-knowledge-management/”]

上述のことはこの水面から出ている表層のみに着目してそこから長い時間をかけて体系化したものだけを共有していることを意味しています。でも実際に即時性・即効性があるナレッジは、表層化されていないので軽視され続けます。表層に上がってくるまで待っているということは、それまで年月をかけて現場に浸透してきたことを意味します。それはそれとして、とても大切なことですが、あまりにも時間がかかりすぎるのです。

野生のナレッジこそマネージすべき

氷山の表層化されていない部分は暗黙知です。一言に暗黙知といっても、個人レベル、チームレベル、組織レベルとあるので、ある人、あるチームにとってはそれは常識となっているものでも他の人、他のチームにとっては新しい発見ということもありえます。

ナレッジの即時性・即効性を大事にするならば、この氷山の表層にでてきていない部分をどうマネージするかを検討すべきです。表層にでてきているものは、SharePoint や Confluence のようなツールで管理しやすいでしょう。でもそれは形式的なものを単に一箇所に集約して便利にまとめたにすぎません。大事なナレッジがきちんと集約され、活用されているのかは見えない状況です。

そこで考えなければならないのは、暗黙知をどうマネージするかです。マネージするということは形式知にすることとは限りません。暗黙知を暗黙知のままに共有できるとか、暗黙知が自然と整理され形式知になること。それが行える環境を整えるべきだということです。

そこでは単にツールを導入すればよいという安易な考えはおそらく通用しないでしょう。

Scrapbox の可能性

Scrapbox は、この環境になりえる可能性を秘めています。実際にご支援をさせていただいている複数の現場において Scrapbox は効果を発揮しつつあります。不確かなものを不確かなまま容易に記述していけ(箇条書き、容易なリンク構造、ツリー構造レス)、ある程度の匿名性があり(誰が書いたか意識しない、同時編集できる、履歴も残る)、ナレッジとナレッジが自然とつながる(リンクするだけ、2 hop link、ナレッジをつなげる努力を人間がしなくてすむ、検索で自分が本当に知りたかったことにたどり着ける仕組みが自然にできあがる)点が Scrapbox が野生のナレッジをマネージし、その先として、形式知化にまでつなげられる可能性です。

実際に、現場支援において Scrapbox を使ってもらっている場合は、私がリモートから内容を勝手に変えることがよくあります。私はあくまでメンター、アドバイザーとして入っているので現場の実際の業務にはタッチしていません。でもわかりにくい記述や素人ならではの視点での質問などは可能なので、内容を拝見してわからないことは聞くし、その結果としてよりよいナレッジになるように書き換えたり、新しいページを作ったりを積極的に行います。その様をみて、現場の人たちも同じようにやりはじめたら「ナレッジは体系だてていないといけない」「ナレッジは正しいものだけ共有すべき」から脱却できてきているサインになります。現場が現場の貯めに貯めたナレッジは費用対効果など考える必要が一切ないくらい価値が高いものになります。もし、そういったナレッジ共有をしてみたい方はぜひご相談ください

ナレッジは野放しこそ使えるものに昇華しやすい

多くのナレッジ共有のアプリーチやツールは、形式知化するためだったりします。それだと見えているものが共有されるだけなので本当に共有したいナレッジが軽視されたり、発見できなかったりする可能性があることを記憶の片隅に置いておいてください。とくにツールの機能が豊富になればなるほど、それらは形式的なナレッジに対する機能であることが多いです。例えば、いいねボタンといったものは書き手の承認欲求を満たすためにもとても大事な機能ですが、そもそも見てもらえないことが前提にあるから必要な機能であったりします。コメント欄もコメントに書くくらいならば、直接編集した方がいいわけです。でもそうならないのは、文書の編集は編集モードで行わなければならないからというのがあります。コメントは自由にかけるのでモード切り替えもいりません。その結果、本文よりコメントにナレッジが蓄積していくという不思議現象を生み出してしまいます。ここに挙げたのはほんの一例ですが、ぜひ本当にやりたいナレッジ共有はなんなのかを見つめ直していただければ幸いです。

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長沢 智治

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ソフトウェアエンジニアリング、チームワークの専門家。スクー講師。 日本ラショナルソフトウェア、日本アイ・ビー・エム、ボーランドで業務改善のプリンシパルコンサルタント、ソリューションアーキテクトとして活動したのち、2007年より日本マイクロソフトのエバンジェリストに就任。エバンジェリストを11年経験。事業立ち上げ、市場創造の経験者。 現在は、各社のアドバイザーなどを行なっている。お気軽にご相談ください。
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